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JR目黒駅から、目黒通を大鳥神社方面に向かうと、途中緩やかな下り坂になっている。その坂を下りきった所に小原晋吉の新店舗はあった。
三十坪ほどある店内では、小原をはじめ、厨房スタッフ3人、フロアースタッフ4人が夕方からの新規開店に向け忙しく動いていた。
「オーナー、ロビー花外に並べますがいいですか」
フロアースタッフの佐伯が小原に聞いて来た。
「ああ、頼む」
答え、店内に置かれた五台のロビー花を見た小原は、その中の一台に目が止まった。
送り主は、嶋 暁彦であった。
小原は十数年前、リストラされたのを期に脱サラし、長年の夢であったレストラン経営を始めた。
それが元で妻子には逃げられ、その後は、屋台を引きその日暮らしの生活を送っていたのだ。
ところが、ひょんな事から元レーサー嶋暁彦と知り合った。自分同様に過去に購いきれない傷を持った嶋に、どことなく同じ影を見たからかもしれなかったし、単に同じアパートの住人というよしみだったかもしれない。
だが、しばらくしてその嶋が、
「人生をやり直してくれ」
と、どの様にして手に入れた金なのかわからなかったが、多額の金額を渡してくれたのだ。
「・・・嶋さん。ここまで漕ぎ着けられたのは、あなたのお蔭だ・・・」
小原は、呟く様な声で感謝の気持ちを口に出した。
その嶋暁彦が、今日の開店祝いに来てくれる事になっているのだ。
腕時計を見ると、時計の針は3時40分を指している。
「開店まで、あと一時間と少ししかないぞ! 準備急いでくれ!」
小原は、スタッフに声をかけた。
「はい!」
威勢のいい返事が返って来る。
と、入口ドアが開き、ロビー花を外へ飾り置きに出ていた佐伯が血相を変え小原を呼んだ。
「オーナー、一寸来て下さい! 変なんです!」
「どうした?」
小原が外へ出ると 通りでは大勢の人たちが西の空を見上げている。
「あれ・・・。何でしょうね?!」
佐伯は怪訝な顔で空を指差した。
見ると、茜色に染まりだした空に、竜雲が天空を舞うように幾つも浮んでいた。
その雲は、自らが自発的に発しているのか不気味な色を発している。
「気持ちの悪い雲だな・・・。生きているみたいだ」
「・・・そうだな・・・。それより佐伯君、開店は5時だ、急いでくれ!」
言って小原は店内に戻ろうとした。
その時、地の底で地鳴りが響いてきているのが耳に入った。まるで下手糞なドラマーが狂ったように、ビートを刻んでいるような低音が、次第に大きくなり、我慢ならんといった感じでそれが突きあげてきた。
大地がなにかに怒るかのように、奇怪な音をたてていた。
堪らず小原は地面に這いつくばった。
「地震か!?」
目の前の道路がうねっていた。走行中の車は軋み、ブレーキで悲鳴を上げた。それでもハンドルを取られたのか、四方八方に飛び出すと電柱にぶつかったり、落下物に遮られるかして止まっていた。
突然の異変に人々は逃げ場を失い右往左往していた。一歩前に進もうにも揺れが激しく、下手糞な波乗りのようにぐらついては倒れている。そこへ、割れたガラスや、飛びだした家具が降り注いでは、惨状を広げていった。
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