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俳優、石田延之こと鏡京太郎が綴る36年間、鏡の中に封印してきた想いと未来を綴るぺーじ。
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 もはや俺を止められる者などいはしない…。
TAR
351便機内に取り付けられている鏡に向かい、勝ち誇った笑みを浮かべていた雪村の表情が、見る見る驚愕の色に変化して行った。

後退りする雪村の瞳に七色の光が反射している。機内で拘禁されている乗員乗客たちも愕然とし光の元を見入っていた。

 雪村の顔を映していた鏡が突然スパークし、強烈な光を放したのだ。その眩いばかりの光は七色のビームに変化し、そのビームは雪村の体に突き刺さって行く。

 乗客たちを威嚇していた大男三人は、電波障害を受けたテレビ画面のようにノイズが走り、ぐにゃりと折れ曲がるように歪み、その姿は消えていった。

 鏡から放たれていた七色のビームが、生き物のように交差し始めた。そして、そのビームが一本の光の束になった時、眩いばかりの光が機内を包んだ。流石の雪村も眩しさに目を覆った。
「ガシャリ!」
光の中で鏡の割れる音がした。光が徐々におさまって行く。目を手で覆っていた雪村が前方を注視し愕然とする。

雪村の前方には、またあの時の目出し帽の男が立ちふさがっていた。

「嶋・・・!!」

 雪村の口から驚愕の声が洩れる。

驚いたのは嶋の出現ではなかった。その存在感だった。かつて、病院地下で対決したときの嶋とは明らかに違った。桁違いのパワーとしかいいようのないものが、明らかに放射されている。

人には時に「後光が射す」ということがあるという。
カリスマ性とか、自分に到底叶わない威光や、人としての大きさを感じたとき、その人が眩しく、時には正視すら難しいことがあるという。

今の嶋がそうだ。何か大きな力が光を身に纏っているようで、嶋の姿すらシルエットとしてしか認識できない。

その時、雪村の頭の中で低く、地の底から唸りを上げるような声が聞こえた。そしてそれが、雪村の口を衝いて出た。

「きさま! まさか…貴様は!?」

 と、二人が対峙する空間が突如歪みだした。雪村の手下たちが歪んで消えた様を、もっと大きくしたように、機内全体を覆わんばかりに空間が捩れた。
瞬間、目出し帽の男と雪村は機内から機外へと移動していた。二人が存在する空間そのものが、次元と次元、空間と空間の境目のようなものを、越えるかのように瞬間移動をしたのだ。

 滑走路は地震による地割れや地面が隆起し、ささくれだっていた。裂けた滑走路は数機の巨大な機体をのみ込み、その機体は黒煙を上げ炎上しており、殺伐とした情景が広がっていた。
遠巻きにTAR
351便を包囲していた警官隊が、突如現れた二人に驚き後退した。

「乗客を救助して下さい!」

 警官隊に向い、目出し帽の男が叫んだ。 その言葉に、唖然としていた警官隊は我に返り脱兎の如く機内へと突入していった。

その警官隊をしり目に、再び2人の周囲の空間が膨れ上がり、やがて消えるように、閉じていった。

 

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 何か、内に大きな力の湧きたつのを嶋は感じていた。だが、躊躇いもあった。何かは分からないが心の奥底で、チリチリとするものがある。さっと鏡の中に入る勇気が今一歩のところで、危険信号を発していた。

だが、思ううちに自分の体が七色に光り出していた。それは今まで鏡の中に入り込むときに起きたことのない現象だった。また、あの声が頭の中で聞こえた。
「躊躇うでない!我は共にあり。立て!」
今度は途切れることなく、はっきりと聞こえた。
その瞬間、今までのわずかな躊躇いも、声の主が誰なのかという疑問もかき消えた。心の中にあるのは目的を果たさねばならないという強固な意志だった。

傍で七色に輝きだした嶋を見つめながら蔵元は、涙があふれ返りそうになっていた。
(嶋ちゃんだ。あの頃の…一緒に夢を追いかけたころの嶋ちゃんだ。まるで一気に若返ったかのようじゃないか!)

「蔵、いってくる」
レース直前、コクピットに入る時に見せた闘志にみなぎる顔で、嶋はそういった。
確かに、気持ちが一気に若返った気がするのは嶋も感じていた。
「自分は勝てる。いや勝つ」
そう自身に言い聞かせていたあの頃をまざまざと思い出す。

力強く拳を握り、強烈なG(高速で走るため車体にかかる重力)にも負けずに、ライバルを、そのリアウィングを見つめる眼。今はその倒すべき相手は、ハイジャックされた機内にある。
一瞬の車体のブレ、挙動の隙間を逃さずに襲いかかったレーサー時代のように、こんどはその集中力を鏡の向こうに据えて、握りしめた拳を胸にあてた。
心臓の鼓動が激しく拳を叩く。
「俺は生きている。生きている。やれる…やれる…やれる」
瞬間、嶋の体を包む光は七色の十字形を形どり、心地よい金属音を発して鏡の中に猛然と突っ走った。
鏡の中にさっと消える嶋をみながら、蔵元は心の中で叫んでいた。
「スパーク!」

つづく

「蔵! 鏡だ。鏡を守ってくれ!」

 嶋は必死に鏡に覆いかぶさりながら、蔵元に向かって叫んだ。地鳴りと共に窓ガラスが割れ、箪笥も倒れてくる。たいして広い部屋ではないにもかかわらず蔵元が嶋の元へ辿り着くのは容易ではなかった。

前に行こうとしても激しい揺れのため足元が覚束無い。壁にみるみる亀裂が入り、破片が容赦なく嶋や蔵元に落下してゆく。

どれほど経ったのか、漸く揺れが収まりはじめた。

 部屋の中は散々たる状態になっている。

「嶋ちゃん!大丈夫か!」

「ああ・・・・」

「鏡は!?」

「・・・・・大丈夫だ・・・」

 立ち上がった嶋の背中からは崩れ落ちた壁の破片や、壊れ飛び散った家具の残骸が滑り落ちたが古代鏡は無事であった。

「蔵!雪村が…雪村幸男は生きているぞ!」

「えっ!?」

「青い稲妻と名のるハイジャックも、雪村の仕業だ!」

「何だって!」

蔵元の驚愕の声が響く。

 嶋は窓際に歩み、怒りの感情を顕に地震によって破壊された街並みを見つめた。

 と、突然嶋の脳裏を圧迫するような声が占領した。その声は重く、それでいて透き通るような響きがあった。

ワレ…サ…オ…トモ…共に…タタ…

 夢の中で聞いた声であった。

初めて聞く声だった…いや音のようにも聞こえた。その音色には、心に盤石の重しをのせるような堂々たる響きがあった。それでいて、初めてなのに、どこか懐かしく、まるでずっとどこかで聴いてきた声のようでもあった。

明らかに理解できたのは「トモ…」「共に」という部分だけだった。ただ、何か云いようのない強い意志というか、力の存在が自分の中に宿ったような気がした。それが”共にある”という安心感が嶋を包みこんでいるような気がした。

「嶋ちゃん!鏡から光が!!」

 蔵元が驚愕の声を上げ、嶋は我に返った。

 見ると、崩れ落ちた壁に立て掛けられた古代鏡の鏡面が揺らぎ、その鏡面から発せられた色とりどりの光の束が、部屋全体を覆わんばかりに広がりつつあった。そしてそれは、部屋の四隅まで広がり切ると、一気に傘を折り畳むように鋭い光の矢となって嶋の体を貫いた。

「何だ今のは!」

 蔵元が、嶋と古代鏡を交互に見ながら言った。

まるで、後光が指すかのように嶋の体は柔らかい光に包まれていた。そして心臓の鼓動のように脈打ち始めた。

ドックン、ドックン、ドックン…

鼓動に合わせて、光は波紋を広げたり、縮めたりした。それにあわせて、部屋全体の色も大きく変わる。蔵元は唖然としていた。ただ、その光の中に例えようもない力と安心感を感じて立ち尽くしていた。

ドッ…ク…ン、ドッ…クク…ン…

次第にその鼓動の間隔が狭まり、ふっと消えた。

明らかに、自分の中に何かが入り込んだ気がしていた。先ほど感じた強い意志と、それが共にあるという安心感…。それが今、もう一つの形を作り出していた。

何か変わったというわけではない。嶋を見つめる蔵元の目にも別段嶋の肉体に変化が見られたわけではなかった。だが、それでも、明らかにそこにいる嶋にはいつにない力強さを感じていた。

それはかつて、レーサーとして己の技量のみを信じ、傲岸不遜と言われはしたが、己に絶対の自信を持っていた頃の嶋、全身から勝つことへの執念と闘志をみなぎらせた嶋を彷彿とさせていた。

つづく

 鏡の前に立ったのは嶋自身であった。

 現世の嶋は今にも鏡の中に入ろうとしている。ハイジャック犯を捕えるために…。その先の顛末は…分かり切っていた。

「駄目だ!止めろ!入っては駄目だ!」

 肉体も無く、意識だけの嶋は必死に叫んだ。いや肉体のない精神体だけで、それこそ鏡にブチあたんばかりに、激しい感情がスパークしていた。

「入ったら駄目だ。駄目なんだよ!」

だが、その声が現世の嶋に届く筈も無い。何か取り返しの付かないことをしてしまったような喪失感と絶望で嶋の精神は張り裂けそうになっていた。

その時である。意識だけの存在になった嶋が、眩いばかりの光の塊になり穴の中へ吸い込まれていった。そして、その光の塊は古代鏡の前に立つ嶋を覆い包んだ。

十字のように、光輝くそれはまるで音速を超える時のような音をだして消えた。

 波紋をつくり揺らぐ古代鏡の鏡面から突然飛び出した光体に、現世の…否、過去の嶋は驚愕した。そしてそのまま気を失ってしまった。


…………

 波紋をつくり鏡面から射す微かな光を体に浴び、嶋は夢を見ていた…。

ハイジャックされたTAR351機内の光景。そこに、死んだと思っていた雪村が現れたこと。
大地震が襲い、古代鏡が壊れ、鏡の中に閉じ込められ彷徨歩く自分自身…。
そして暗黒の中に、メラメラと揺らぐ物体が嶋をつつみ込み、何処からともなく声が聞こえてくるのだ。
不思議な声だった。それは何かを語りかけているようでもあり、それでいて謡いのようにメロディがあった。リズムがあった。
それは日本語のようだが、もっと旧い、そして美しい響きを持っていた。

「ワレ…サ…オ…トモ…」

夢現の中で言葉を必死で理解しようとする。
遠い、遠い、それでいて力強い、大らかな音声…その声が、謡いが頭の中で銅鑼のように反響しだした。

ワレ…サ…オ…トモ…共に…タタ…」

嶋には当然分からない。
謡いが反響し合い、木霊のように消えていく。
それと同時に 
波紋をつくる古代鏡の鏡面から射す光が徐々に消えてゆく。

 嶋は目を覚ました。

「…夢か…」

ふらふらとする。おぼつかない足取りで鏡の前に立った嶋の前で、漸く焦点が合っていった。その途端、何かが頭の奥の方でスパークした。いきなり頭の中で声がした。

駄目だ!止めろ!入っては駄目だ!」

声とともにめまぐるしい勢いで、まるで早送りされる映像のように揺れる街並、炎と黒煙、そして割れる鏡と暗黒の中に佇む男の姿が浮かび上がって消えた。

 嶋は我に返ると、古代鏡に覆いかぶさろうとした。
すると、ガラリと部屋の戸が開き蔵元が入って来た。

「あぁ、嶋ちゃん。まだ居たか。書き置きを見たよ。ハイジャックだって?」

「蔵!地震だ!地震が来る!!」

 嶋は、古代鏡を立て掛けてあった壁からはずし、鏡を守るように覆いかぶさった。 

「…地震?」

 嶋の言う事が理解出来ずキョトンとしていた蔵元であったが、

「…そう云えば空に変な雲が…」

 だが、言葉は途中で地の底からわき出すような低音に遮られ最後まで聞くことは叶わなかった。

つづく

現世ではどの位の時が経っているのだろうか。

時のエネルギーを感じない闇の空間を嶋は彷徨よっていた。

 闇の空間は、そのもの自体が暗渠の中を流れる水のように感じられた。嶋はその流れの中にあった。
流されるように進んでいるだけのようであった。どこかで、自分の意志ではなくただ、流されているような気分…

「!」

 フト、自分の身体を見ると、嶋の肉体はそこには無かった。つまり、肉体は闇に浄化されたか、溶け込んでしまいそこには無く、意識だけが暗渠の中を彷徨っている…そんな感じだった。 

―この感覚はどこかで体験した事がある・・・。

そうだ! 死んだと思った自分が、吸い込まれるように鏡の中に入った時もこの様な感じだった!―

嶋が初めて古代鏡に吸い込まれた時、あの時はただ慌ててしまい分からなかったのだが、まさにその時の妙な感覚がまざまざと蘇ってきた。

肉体がないといっても、それは目に見えないだけのことなのかもしれない。何故なら、感覚はそこに自分の五体を、爪の先から指まで、存在するという感覚は明らかにあるのだ。
この得体のしれない感覚に身体を…否、意識を慣らさなくてはいけない。

後ろに視線を移してみた…
それは肉体のない嶋にとっては、意識を後ろに移動させた…といったほうがいいかもしれない。

そこには光の球が乱舞する光景が見えた

 時も無く、圧縮された世界には現世のような距離というものも無い、空間そのものが平面なのであろう。

その時、暗黒の空間が歪み始め、嶋の意識の前にメラメラと炎のように揺らぐ物体が現れた。そしてその物体は、嶋の意識の中に入り込んできた。
容易に…するりと。

 それは、突然の出来事であった。

 一瞬意識が空白になり、また徐々に暗黒の闇が嶋の意識をつつんで行く。

―何だったんだあれは!―

 と、暗黒の中に一縷の光が現れた。

―あれは! 出口か?! もしかして過去に!?

 その光の点は、見る見る波紋の揺らぐ空洞になって行く。色鮮やかな光彩が大きく円を描く、その光景に一瞬、嶋は子供のころ夢中になって見ていた特撮番組を想い出していた。
その前で嶋は立ち止まった。

光彩の彼方…暗黒のその先に視線を向ける=意識を送ると、やはり合わせ鏡をしたように点々と無限大に波紋の揺らぐ空洞は続いていた。

 嶋は、目の前にある空洞を覗き込んだ。 どこか見覚えのある光景であった。

「此処だ!この部屋だ!!」

 そこは確かに、古代鏡を置いてあった部屋であった。つまり嶋の部屋ということだ。

「とうとう出口を見つけたぞ!! これで現世に帰れる!」

 嶋が、逸る心を押さえ波紋の揺らぐ穴に意識を集中した時だった。

 穴の向こうに人影を感じた。誰かが鏡の前に近寄って来る。

「!!?」

 鏡の前に男が一人現れた。それは…

つづく

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 現在、発売中の『さよならミラーマン』の86頁ー当時の制作主任、設楽氏と助監督、北村氏の対談において以下の件~ ”~志村さんは、下に優しく上には厳しい人なんです。絶対お世辞を言わない、珍しい人でした。損と言えば損ですよね。世渡りベタというか。あ、この人も出世しない人だ(笑)。*(山浦さんとの対談参照)  とあります。これは脚本家の山浦弘靖氏との対談において設定上「出世しない人」という言葉があり、それにリンクするものとして捉えておりましたが、86頁においてもスタッフ思いであり、スタッフの為に上にも媚を売らない凛とした性格ーそれ故にスポンサーなど上とはぶつかることも多く、才能があるのに出世はしずらいー という意味として対談時の通り記述させていただきました。  ですが、とらえようによっては誤解を招く文章でもありますし、また発言者となった北村氏にもご迷惑をかけかねない要素も含まれておりますので、ここに弁明並びに不用意な文法となったことをお詫び申し上げます。また、この文章を読まれて御不快に思われた方には、真意は異なるということと、不用意な文法である点に関してお詫びを申し上げるとともに、ご理解賜りたくここに敢えて記載させていただきます。 株式会社大洋図書  「さよならミラーマン」編集スタッフ一同
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