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俳優、石田延之こと鏡京太郎が綴る36年間、鏡の中に封印してきた想いと未来を綴るぺーじ。
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 鏡の前に立ったのは嶋自身であった。

 現世の嶋は今にも鏡の中に入ろうとしている。ハイジャック犯を捕えるために…。その先の顛末は…分かり切っていた。

「駄目だ!止めろ!入っては駄目だ!」

 肉体も無く、意識だけの嶋は必死に叫んだ。いや肉体のない精神体だけで、それこそ鏡にブチあたんばかりに、激しい感情がスパークしていた。

「入ったら駄目だ。駄目なんだよ!」

だが、その声が現世の嶋に届く筈も無い。何か取り返しの付かないことをしてしまったような喪失感と絶望で嶋の精神は張り裂けそうになっていた。

その時である。意識だけの存在になった嶋が、眩いばかりの光の塊になり穴の中へ吸い込まれていった。そして、その光の塊は古代鏡の前に立つ嶋を覆い包んだ。

十字のように、光輝くそれはまるで音速を超える時のような音をだして消えた。

 波紋をつくり揺らぐ古代鏡の鏡面から突然飛び出した光体に、現世の…否、過去の嶋は驚愕した。そしてそのまま気を失ってしまった。


…………

 波紋をつくり鏡面から射す微かな光を体に浴び、嶋は夢を見ていた…。

ハイジャックされたTAR351機内の光景。そこに、死んだと思っていた雪村が現れたこと。
大地震が襲い、古代鏡が壊れ、鏡の中に閉じ込められ彷徨歩く自分自身…。
そして暗黒の中に、メラメラと揺らぐ物体が嶋をつつみ込み、何処からともなく声が聞こえてくるのだ。
不思議な声だった。それは何かを語りかけているようでもあり、それでいて謡いのようにメロディがあった。リズムがあった。
それは日本語のようだが、もっと旧い、そして美しい響きを持っていた。

「ワレ…サ…オ…トモ…」

夢現の中で言葉を必死で理解しようとする。
遠い、遠い、それでいて力強い、大らかな音声…その声が、謡いが頭の中で銅鑼のように反響しだした。

ワレ…サ…オ…トモ…共に…タタ…」

嶋には当然分からない。
謡いが反響し合い、木霊のように消えていく。
それと同時に 
波紋をつくる古代鏡の鏡面から射す光が徐々に消えてゆく。

 嶋は目を覚ました。

「…夢か…」

ふらふらとする。おぼつかない足取りで鏡の前に立った嶋の前で、漸く焦点が合っていった。その途端、何かが頭の奥の方でスパークした。いきなり頭の中で声がした。

駄目だ!止めろ!入っては駄目だ!」

声とともにめまぐるしい勢いで、まるで早送りされる映像のように揺れる街並、炎と黒煙、そして割れる鏡と暗黒の中に佇む男の姿が浮かび上がって消えた。

 嶋は我に返ると、古代鏡に覆いかぶさろうとした。
すると、ガラリと部屋の戸が開き蔵元が入って来た。

「あぁ、嶋ちゃん。まだ居たか。書き置きを見たよ。ハイジャックだって?」

「蔵!地震だ!地震が来る!!」

 嶋は、古代鏡を立て掛けてあった壁からはずし、鏡を守るように覆いかぶさった。 

「…地震?」

 嶋の言う事が理解出来ずキョトンとしていた蔵元であったが、

「…そう云えば空に変な雲が…」

 だが、言葉は途中で地の底からわき出すような低音に遮られ最後まで聞くことは叶わなかった。

つづく
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誕生日:
1971/12/05
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 現在、発売中の『さよならミラーマン』の86頁ー当時の制作主任、設楽氏と助監督、北村氏の対談において以下の件~ ”~志村さんは、下に優しく上には厳しい人なんです。絶対お世辞を言わない、珍しい人でした。損と言えば損ですよね。世渡りベタというか。あ、この人も出世しない人だ(笑)。*(山浦さんとの対談参照)  とあります。これは脚本家の山浦弘靖氏との対談において設定上「出世しない人」という言葉があり、それにリンクするものとして捉えておりましたが、86頁においてもスタッフ思いであり、スタッフの為に上にも媚を売らない凛とした性格ーそれ故にスポンサーなど上とはぶつかることも多く、才能があるのに出世はしずらいー という意味として対談時の通り記述させていただきました。  ですが、とらえようによっては誤解を招く文章でもありますし、また発言者となった北村氏にもご迷惑をかけかねない要素も含まれておりますので、ここに弁明並びに不用意な文法となったことをお詫び申し上げます。また、この文章を読まれて御不快に思われた方には、真意は異なるということと、不用意な文法である点に関してお詫びを申し上げるとともに、ご理解賜りたくここに敢えて記載させていただきます。 株式会社大洋図書  「さよならミラーマン」編集スタッフ一同
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