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何か、内に大きな力の湧きたつのを嶋は感じていた。だが、躊躇いもあった。何かは分からないが心の奥底で、チリチリとするものがある。さっと鏡の中に入る勇気が今一歩のところで、危険信号を発していた。
だが、思ううちに自分の体が七色に光り出していた。それは今まで鏡の中に入り込むときに起きたことのない現象だった。また、あの声が頭の中で聞こえた。
「躊躇うでない!我は共にあり。立て!」
今度は途切れることなく、はっきりと聞こえた。
その瞬間、今までのわずかな躊躇いも、声の主が誰なのかという疑問もかき消えた。心の中にあるのは目的を果たさねばならないという強固な意志だった。
傍で七色に輝きだした嶋を見つめながら蔵元は、涙があふれ返りそうになっていた。
(嶋ちゃんだ。あの頃の…一緒に夢を追いかけたころの嶋ちゃんだ。まるで一気に若返ったかのようじゃないか!)
「蔵、いってくる」
レース直前、コクピットに入る時に見せた闘志にみなぎる顔で、嶋はそういった。
確かに、気持ちが一気に若返った気がするのは嶋も感じていた。
「自分は勝てる。いや勝つ」
そう自身に言い聞かせていたあの頃をまざまざと思い出す。
力強く拳を握り、強烈なG(高速で走るため車体にかかる重力)にも負けずに、ライバルを、そのリアウィングを見つめる眼。今はその倒すべき相手は、ハイジャックされた機内にある。
一瞬の車体のブレ、挙動の隙間を逃さずに襲いかかったレーサー時代のように、こんどはその集中力を鏡の向こうに据えて、握りしめた拳を胸にあてた。
心臓の鼓動が激しく拳を叩く。
「俺は生きている。生きている。やれる…やれる…やれる」
瞬間、嶋の体を包む光は七色の十字形を形どり、心地よい金属音を発して鏡の中に猛然と突っ走った。
鏡の中にさっと消える嶋をみながら、蔵元は心の中で叫んでいた。
「スパーク!」
つづく
だが、思ううちに自分の体が七色に光り出していた。それは今まで鏡の中に入り込むときに起きたことのない現象だった。また、あの声が頭の中で聞こえた。
「躊躇うでない!我は共にあり。立て!」
今度は途切れることなく、はっきりと聞こえた。
その瞬間、今までのわずかな躊躇いも、声の主が誰なのかという疑問もかき消えた。心の中にあるのは目的を果たさねばならないという強固な意志だった。
傍で七色に輝きだした嶋を見つめながら蔵元は、涙があふれ返りそうになっていた。
(嶋ちゃんだ。あの頃の…一緒に夢を追いかけたころの嶋ちゃんだ。まるで一気に若返ったかのようじゃないか!)
「蔵、いってくる」
レース直前、コクピットに入る時に見せた闘志にみなぎる顔で、嶋はそういった。
確かに、気持ちが一気に若返った気がするのは嶋も感じていた。
「自分は勝てる。いや勝つ」
そう自身に言い聞かせていたあの頃をまざまざと思い出す。
力強く拳を握り、強烈なG(高速で走るため車体にかかる重力)にも負けずに、ライバルを、そのリアウィングを見つめる眼。今はその倒すべき相手は、ハイジャックされた機内にある。
一瞬の車体のブレ、挙動の隙間を逃さずに襲いかかったレーサー時代のように、こんどはその集中力を鏡の向こうに据えて、握りしめた拳を胸にあてた。
心臓の鼓動が激しく拳を叩く。
「俺は生きている。生きている。やれる…やれる…やれる」
瞬間、嶋の体を包む光は七色の十字形を形どり、心地よい金属音を発して鏡の中に猛然と突っ走った。
鏡の中にさっと消える嶋をみながら、蔵元は心の中で叫んでいた。
「スパーク!」
つづく
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誕生日:
1971/12/05
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現在、発売中の『さよならミラーマン』の86頁ー当時の制作主任、設楽氏と助監督、北村氏の対談において以下の件~
”~志村さんは、下に優しく上には厳しい人なんです。絶対お世辞を言わない、珍しい人でした。損と言えば損ですよね。世渡りベタというか。あ、この人も出世しない人だ(笑)。*(山浦さんとの対談参照)
とあります。これは脚本家の山浦弘靖氏との対談において設定上「出世しない人」という言葉があり、それにリンクするものとして捉えておりましたが、86頁においてもスタッフ思いであり、スタッフの為に上にも媚を売らない凛とした性格ーそれ故にスポンサーなど上とはぶつかることも多く、才能があるのに出世はしずらいー
という意味として対談時の通り記述させていただきました。
ですが、とらえようによっては誤解を招く文章でもありますし、また発言者となった北村氏にもご迷惑をかけかねない要素も含まれておりますので、ここに弁明並びに不用意な文法となったことをお詫び申し上げます。また、この文章を読まれて御不快に思われた方には、真意は異なるということと、不用意な文法である点に関してお詫びを申し上げるとともに、ご理解賜りたくここに敢えて記載させていただきます。
株式会社大洋図書
「さよならミラーマン」編集スタッフ一同
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